▲森川社長(右から三人目)と生産管理関係者の皆さん

グローリーテクニカルソリューションズ 株式会社

人に頼る管理から本格的生産管理システムへ

個別受注生産の管理業務が円滑に

グローリーテクニカルソリューションズ(旧社名:グローリーAZシステム)の生産管理システムが順調に回り始めた。東西2つの拠点にTPiCSを導入。本社のある西宮事業所では、人の判断に頼らざるを得なかった自前の業務処理システムから、高度に自動化された生産管理システムへとレベルアップ。資材発注や生産展開、納期管理など個別受注生産の管理が円滑になった。今後、取り組みが本格化する全社の「生産改革」の中でも、TPiCSは大きな役割を果たすことになりそうだ。



3社が統合して発足

 グローリーテクニカルソリューションズ㈱(旧社名:グローリーAZシステム㈱)は、通貨処理機のパイオニアとして知られるグローリー㈱の100%子会社だ。本社のある西宮事業所(兵庫県西宮市)と東京事業所(東京都台東区)の2つの拠点を持つ。会社設立は2003年で、グローリーグループの㈱エー・ゼット(西宮事業所の母体)とシステムリサーチ製造㈱(東京事業所の母体)が合併して発足。また2010年にはグローリーFSM㈱(神奈川県座間市)も併合し、現在の姿になった。

 東京事業所はグローリー向けの鍵管理機や重要物管理システムなどの設計業務が中心(製造はグループ内の別会社など)。西宮事業所ではグローリー向けの現金処理管理機や小型重要物管理機などの生産のほか、ニット原反を生産する編機用制御器や鉄道車両向け車体傾斜制御器など、外部へのユニット供給事業も手がける。設計・製造の一貫生産体制をとり、中でも設計力の高さに定評がある。

 こうした半面、課題もある。「同じグローリーグループでありながらも、3社の寄り合い所帯のため、会社全体を見ると統一感に欠けること。また、これまでお客様に恵まれ、景気の波にもまれずに来たせいか、現場にムダが多いことです」と森川泰史社長は話す。こうした現状を打開するための有効なツールとして位置づけられているのが、TPiCS生産管理システムである。TPiCSは西宮事業所と東京事業所の両拠点に導入されているが、今回紹介するのは西宮事業所の取り組みである。

 ▲製品に組み込むユニット

 ▲組立部門

 ▲森川泰史 社長


誰もが上手くいくと思い込んでいた

 ▲岩田隆宏 氏

 西宮事業所でTPiCSの導入検討を始めたのは、20124月のことである。社内で自前で作った生産管理システム(以下、旧システム)の老朽化が著しく、限界を迎えていた。MSDOS(基本ソフト)上で動くシステムであったが、そのOSを継承する次世代のパソコンはなく、プリンターも廃番となりインクリボンすら入手が難しい状態だった。その年の5月には、次期生産管理システムの検討チームが発足。市販のシステムの中からTPiCSが選定された。決め手となったのは、TPiCSが世の中から認められたシステムであると判断したためである。

 「当社のモノづくりには『やや偏りがあって、一般的ではない』という認識がありました。そこで、汎用性の高い生産管理システムを入れて、カスタマイズをせずにそのまま使うことで、生産のレベルアップも同時に狙ったのです」と、当時の製造部長で現在は事業サポート室室長を務める岩田隆宏氏は話す。

 かくして、ベテランSEをリーダーにし、購買と生産管理部門の若手社員を中心に旧システムからの移行業務が始まる。メンバーには新システムに慣れてもらうため、東京のTPiCS研究所で研修会を受講させるなど、移行準備を進めた。2年後の20144月からはマスター登録を開始。ここまでは社内の誰もが上手くいくものと信じていた。


1回目の運用は3か月で中断

 ところが、20151月に1回目の運用を開始したところ、すぐに行き詰まった。担当者は日々、遅くまで入力作業をやっているのに一向に手配作業が進まないのだ。準備段階の登録は単純に計画通り、想定通りに生産できる前提で運用テストをしていた。しかし、実運用になると多くの異常が発生する。異常処理でシステム内の矛盾が発生し、その矛盾が矛盾を呼び不整合が日ごとに倍増し、お手上げの状態になっていたのだ。23週間後には、同じ製品や類似品をリピート生産しようとすると、前に手配した部品を食い合うなど、生産にも影響が現れ始めた。「一時は、『TPiCSが壊れたんじゃないか』と思ったほどでした。安全策として、旧システムを温存してあったので、生産が止まることはなかったものの、予想すらしないことに愕然としました」(岩田氏)。

 ことの重大性を痛感した岩田氏は、システム稼働から3か月後、意を決して「新システムの運用を一時期、中断させてください。私が責任者として絶対に再立上げします。」と社長に進言、半年間で再開することを条件に中断の許可を得たのである。「もう背水の陣なんて生やさしいものではありません、1歩でも引けば崖から真っ逆さまに転落するような気持ちでした」と語る。


メンバーを一新、役割の明確化

 ▲山本里史 氏

 岩田氏が最初に取り組んだのは、メンバーの一新と役割分担の明確化である。新たなメンバーは岩田氏のほか二人。一人は資材部長であった山盛敏孝氏。彼は旧システムの開発者でもあった。もう一人はSEで現生産管理部生産管理グループリーダーの山本里史氏である。専任制とするため三人の責務はすべて本人にゆだねた。山本氏は言う。「私にとってはまさしく寝耳に水でした。それまでシステム開発に関することだけをやっていて、生産管理のセの字も知らなかったからです」。

 この人選には理由があった。トップから、新システム立ち上げを、SI会社の力を借りずにTPiCS研究所と直接やりとりすることを求められていたためである。「TPiCSをカスタマイズしようということではありません。TPiCSを生かすには、現場に精通した人材とデータを利用できるシステムに精通した人材がいたほうが上手くいくと考えたからです」(岩田氏)。

 岩田氏の役割は、全体の進行、会社の上層部との調整。さらにキーとなるマスター登録も岩田氏が引き受けた。山盛氏の役割は、従来のことも踏まえた新しい運用と、使い勝手の向上、そして経験から自発的に操作マニュアル整備にも取り組んだ。そして山本氏の役割はデータの変換や帳票などシステムに関する全般である。


失敗原因の究明、そして再出発

 失敗の原因は何だったのか。実は、旧システムは、複雑な製品構成は表現できず、親部品と子部品がズラリと並ぶ1階層であった。複雑な製品は、製品と使用ユニット品の構成、ユニットとその使用部品の構成のように途切れ、製品の生産計画から末端部品までの間は人が工面してつないでいた。発注は人が在庫情報を紐解いて、「この在庫であれば要る、要らない」と判断して登録していた。調達部品の納期日程も人が仕入先とやり取りして調整し、どうにか生産できるようにしていたシステムだった。

 人手によってつないでいたシステムを、何も変えずに自動化されたシステムに置き換えても、うまくいくはずはない。「旧システムは良い意味で人に判断をゆだねた柔軟性のあるシステムだったのです。それをそのまま自動化を前提とする新システムに再現するのは到底無理があります。しかし、当時はそんなことすら気づかなかったのです」(岩田氏)。

 新メンバーで再度参加したTPiCS研修会では、「生産管理システム立上げにリーダシップの必要性を説いた“エリートSEなぞの失踪事件”は、うちの会社を見に来てるんじゃないかと思うほど当てはまって怖いくらいでした」(山本氏)。

 帰って見直すと問題山積みなのを実感した。そして、もう1つの重要な要素がわかってきた。約1年半かけて登録してきた4万点のアイテムコードは旧システムに倣った体系で、そもそもこれらのコードは全社で認知されたものではなく一部だけで通用するローカルコードであった。だから設計部門から試作用の部品の要求があっても、コードが違うので何の部品なのかわからないこともあった。「社長には、半年と約束していましたから、随分悩みましたが、思い切って全部捨て、一から作り直すことにしました」(岩田氏)。

 メカ部品は図番(品目)を採用することにした。電気部品は、取引先にもわかるように、メーカー型式から英数字以外を除きコードとした。部品以外に組立、払出しなどの作業もコード化し製品構成表に組込んだ。

 「不必要なコードも整理し、約半年をかけて、何とか9000品種のマスター登録と製品構成表の登録を行うことができました」(岩田氏)。

 そのころには、山盛氏は業務の運用マニュアル、山本氏は伝票など各帳票、伝票発行システム等の補完システムもでき上がりつつあった

 ▲生産管理部門のTPiCS端末

 ▲部品の在庫置き場


AZ独自の生産へ仕組づくり

 ▲出荷検査待ちの製品

 量産を中心とする生産現場では、構成表を用意した製品の投入で事が足りるが、開発を主体とする同社は、全体の8割の要求は試作などのユニークでマチマチなものであった。TPiCS 研究所に相談すると、「試作部品などは別のシステムで発注している企業さんが多いですよ」との返事。だが、別のシステムを作るだけの人材と資金はもちろんなかった。

 ある日のこと、山盛氏が1つの案を持ち出した。「注文者を親アイテムとし一品生産で計画すれば、上手くいくのでは?」この案はまさに天啓であった。注文者が複数の製番で全く異なる要求を行っても注文ごとに管理され、問題なく処理される。同じ製番であっても枝番が自動付加され、管理可能である。試作だけではなく、量産時の誤作、治具などあらゆる注文に対応ができる。誤作や完成後の製品の輸送費まで製番管理が可能となった。また、製番を各部門コードに変更すれば、生産だけではなく、工具、什器などの各部門の経費にまで拡張が可能となる。システムは、生産管理のみならず会社の損益を管理するところまで踏み込むことになった。

 TPiCSを補完するシステムも作った。購買部門との調整に使用する仕組は、TPiCSに用意されているExcel帳票を改良して作った「発注チェックリスト」である。取引先に注文書をメール配信する前に、購買部門に毎日注文リストを印刷配布する。標準リードタイム割れしている注文や前倒しなどは注文書を発行する前に、調整して実際に生産できる納期を計画に反映できるようにした。最後まで不安だったのは原価だった。「生産管理システムって正解がないんです。これが気持ち悪くてしょうがなかった。例えば銀行業務は、1 日の入出金が終わると、伝票と現金を数えてぴったり合うまで1 円たりとも逃さない。合うと、それこそ、そろばんのように『ご名算!』となるでしょ、これがないんです」なければ作る。TPiCS内にある原価をExcel上で比較するしくみを作り、なぜ違うのかを研究するようにした。過去1か月の実績を半月かけて入力し、在庫状況を旧システムと比較すると200万円以上の違いがあった。1か月分の実績は量が多すぎ何が悪いのか全くわからない。1日ごとに確認することにした。


グローリーのDNAを吹き込んだ生産革新

 20166月には、現場にも新しい生産管理の考え方がよくわかるようパワーポイントでの説明や山盛氏の操作マニュアルを説明し、2回目の運用の開始を20169月とした。「それでも『これなら行けると』感じたのは開始直前です。8月末に旧システムのすべての注残、製番の引落残、各部品の在庫数と在庫金額を1個、1銭単位まで誤りなくTPiCSにセットできたときは感動しました」(岩田氏)

 旧システムでの注残や製番の引落残まで受け付け、旧システムの平行稼働なしに完全移行させた。細かいトラブルやオペミスはいろいろあったが、ティーピクス研究所の手厚いサポートもあり、新システムは稼働後1日のシステムダウンもなしに順調な稼働を続けている。

 稼働後は、仕入先への資材発注や生産展開、納期管理など、同社の業態である個別受注生産の管理が以前と比べて格段に円滑になった。

 後進の育成にも余念がない。2018 年から生産管理部生産管理グループに加わった吉村真弘氏らにより、作業マニュアルも作成された。「Excelを使って帳票類が作成できるのは楽しい」と吉村氏は話す。

 現在は現場からは離れている岩田氏だが、「未だにTPiCSのデータをコッソリ見ていて、『この遅れはどうなんだ?』と言ってくるんです」と山本氏。「部品の注文も納品も作業進捗も見えますし、納期に対して遅れているものがどれだけあり、それが異常なものかどうかもわかるので安心しています」(岩田氏)

 一方、同じTPiCSを活用しながらも、西宮事業所はVer4.0、東京事業所はVer3.2 とバージョンも違うし、やり方も多少違う。今後、取り組みが本格化する「生産改革」では、ボーダレスに生産できる仕組みを構築する考えだ。

 最後に、「TPiCSを導入した効果は?」と質問すると、意外にも「前に比べると、怒号が減ったなぁ」とあっさり。「もちろん、在庫金額が3割も減ったことも大きいけれども。もう1 つ、『困難なテーマを成功に結び付けるのは先頭に立つリーダーの決してあきらめない熱いこころ(求める心)』なんです。これが、グローリーのDNAであり、今回のことを通じAZに移植できていたら嬉しいです」と、岩田氏は結んだ。

 ▲吉村真弘 氏


会社概要

グローリーテクニカルソリューションズ株式会社

(旧社名:グローリーAZシステム株式会社)

▲西宮事業所

代表者 森川 泰史
本社・
西宮事業所
〒663-8114 兵庫県西宮市上甲子園5-5-17
TEL.0798-26-3100 FAX.0798-266400
東京事業所 〒111-0041 東京都台東区元浅草2-6-6 東京日産台東ビル7F
TEL.0798-26-3100 FAX.0798-26-6400
設立 2003年4月
社員数 130人(西村事業所は70人)
資本金 5000万円
売上高

31億4000万円(2018年3月期見込み)

URL

https://www.glory.co.jp/glory-technicalsolutions/

主な製品例

 ▲現金処理管理機

 ▲鍵管理機

 ▲小型重要物管理機

 ▲重要物管理システム